研究集会を終えて


月曜から三日間に渡って行われた研究集会が終わりました。今回私は組織委員ではありましたが実務のほとんどはMさんとスタッフの方々が面倒を見てくださったので発表を聞くことに集中できました。感じた事は発表のレベルが高かったこと。研究内容もですがプレゼンに工夫がなされた発表が目について、100年の歴史を持つショウジョウバエの研究がまだ発展途上である事を強く感じました。もちろん研究内容が広がり深まる事は科学の当然の流れなのですが、人の世に栄枯盛衰があるように発展のペースも一様ではありません。形態形成遺伝子の同定と機能解析の仕事が1990年代に頂点を迎えた後に、少し閉塞感が感じられたものです。しかしここに来て細胞生物学と神経科学の分野で新たな方向性が開けてきたように思います。
 私がお世話させて頂いたシンポジウムではモデル生物で得られた法則の一般性を問うことを意図してキイロショウジョウバエ以外の話題を取り上げました。台湾から来て頂いたTingさんは種間の生殖隔離の原因となる遺伝子の話をされました。とても聞き取りやすい英語とクリアな話しぶりで、この転写因子が精子形成に必要とされることと、その遺伝子量が少なすぎても多すぎても稔性が低下する事を示しました。種間雑種ではこのようなrate limitingな遺伝子の量がアンバランスになることで稔性低下を招くのだと理解できます。産総研の深津さんは30分のトークになんと90枚のスライドを投入しマシンガンのように話し続けました。おかげで前半の内容は全く覚えていないのですが、カメムシの話だけでも十分おつりが来ました。個人的にお話を伺うと、シラミ、南京虫など、人呼んで「最終兵器」の名にふさわしく凄い(研究の)話が続々。総研大の蟻川さんはうってかわってゆったりとした話ぶりで、アゲハ蝶の視覚受容に関する風格あるトークをしてくださりました。一貫して続けられた優れた研究歴は研究者の品位に現れるものだと感じます。日本における昆虫の神経生理学は独自の発展をすすめているのですが、遺伝学者とはごく一部を除いてまだ接触が足りないと感じています。今回のお話を機に交流が進むことを期待しています。最後友安さんにはTriboliumのホメオティック遺伝子について話して頂きました。彼のUbxの仕事はHox研究の先駆者Ed Lewisが亡くなった直後に出されたのですがLewisがどう反応するか聞いてみたいと思ったものです。彼がどのような独自の世界を作り上げていくかが楽しみです。

 海外に居てしばらく会わなかった人たちが自信に溢れている様子がとても印象に残りました。それと女性の方が元気なことが目につきました。今回は初めて全面英語での発表でした。アンケートを見ると概ね前向きに受け入れられたようです。しかし一部には英語の話に全然ついていけない、とか日本語の方が議論が進むという意見も聞きました。U村さんの教育的指導もあってか発言は多かったですが、もっと多くて良いと思います。特に3日目は皆さんお疲れなのか発言が減ったようでした。ただしこの傾向は質疑を日本語にしたから改善するというものではなく、後戻りすることなく前進することで適応できるものと思います。