移り気な雌に左右される雄のファッション:鳥の場合

Adaptive Plasticity in Female Mate Choice Dampens Sexual Selection on Male Ornaments in the Lark Bunting | Science
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18218896
http://www.sciencemag.org/content/vol319/issue5862/images/medium/covermed.gif

全くの門外漢ながらとても面白く読んだ論文なのでメモ。
雄のクジャクの飾り羽のように極端な装飾は、交尾の成功率を上げることで強い選択圧がかかり続けてきた結果であると考えられている。このような装飾は雄同士の争いには役立つとは考えにくいので、雌がより派手な装飾の雄を好むこの結果だろう。しかしクジャクのような極端な装飾を持たない鳥でも雄はいくつかの独立した特徴を発達させている。こういった雄のファッションはどのようにして選ばれて来たのだろう?

 lark bunting(カタグロシトド)は雄の出生率が高く、数少ない雌をめぐって雄の間で競争が生じる。雌はつがいのパートナー以外の雄とも浮気をする。その結果、交尾期毎に少数の雄が勝者として遺伝子を残すことに成功する。雄は白い羽、くちばし、茶色の羽、身体のサイズ、などの特徴を誇張したバリアントが多い。しかしどれか一つの形質が飛び抜けて増えることはない。この多様性の保持は雌によるパートナー選択においてこれらの特徴に対してバランスのとれた選択がかかった結果だと考えられる。著者らは5シーズンに渡って交尾の成功率を雛のDNAタイピングで調べ、雄のどの形質が最も「もてる」のかを検証した。驚いた事にシーズン事に最も成功率の高い雄の形質には大きな変動があったのだ。ある年は茶髪がはやり、ある年は体格の大きい雄に人気がでる。これはシーズン事に雌が雄の容姿の好みを変化させたと考えられる。シーズン毎の流行が異なっていたのだ。その結果特定の形質に対する選択圧は弱まり、複数のバリエーションが並列する事になる。雌の移り気が雄の形質(=ファッション)を多様化させたと言えるのだろう。不思議なのは雌たちが同調して雄を選んでいるからこそ流行が生じる。なぜ雌たちは独自の判断ではなく、他の雌の好みに左右されるのだろうか?雄たちが少数の雌に対して競争すると同時に、雌たちも人気者の雄をめぐって競争したとしか考えられないがその説明は与えられていない。

 実験データはとてもややこしい。著者たちはおそらく5年間に渡って一定した選択傾向を期待してデータを解析したのだと思う(それが普通の方法)。しかしそのやり方だと選択圧の傾向はさほど強くない。そこで年度ごとのデータを比べると各年度では特定の形質に対する好みがはっきりでるが、年度ごとに傾向が変わるというとても面白い結論に到達した。平均ではなく変動に着眼点を180度シフトした所が成功のポイント。この点は他分野の研究者も学ぶべき所だ。