Jerry Moffatt - Revelations

(2010に書いた感想を記録として再掲)

ジェリー・モファットと言えば僕らが岩登りをはじめた頃にイギリスからアメリカに渡って有名ルートを片っ端からやっつけ、その後日本にも来て開拓されたばかりの最高難度ルートを一挙に片付けて有名になったクライマーだ。それから20年以上、世界のトップを走り続けた彼の自伝。

 80年代というとフリークライミングがゲームとして成立しつつある時期で技術の向上、難度の標準化、登りかたの定義、トレーニングの方法などが手探りで研究されていた時期。モファットは生活保護による最低額の給付を受けながら岩場で寝泊まりしてクライミングに全人生を捧げる生活に明け暮れた。

 本書はそんな彼が世界一のフリークライマーになる過程での強烈な競争心、献身的なトレーニング、貧困を気にしないストイックさ、そして失敗を恐れない楽天性について自分の視点から語られる。中盤からの各章はプロのクライマーとしてビジネスに関わるようになったやり方、トレーニング方法の研究、新しくはじまったコンペで勝つための精神的な鍛錬、ボルダリングで超高難度の課題を追求して新たな境地を拓くまでがうまくまとまって書かれてる。そして最後は40才近くになり家族を持った彼がプロのクライマーから足を洗いビジネスに励む所までが書かれている。

 本書の読みどころは特に中盤の部分、クライミングをビジネスにして行く過程でのプロとしての心構えを語る部分。そして最後の部分、家庭人となったジェリーがそれでも冬の海にサーフィンに出かけて挑戦心を忘れない所。

 もう一つとても興味深いのが一章にある彼の生い立ち。ジェリーは学校ではダントツの劣等生だったらしい。落第を繰り返す彼を心配した両親が医師に意見を求めた結果がディスレクシアという診断。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%82%A2

(引用)知的能力及び一般的な学習能力の脳内プロセスに特に異常がないにもかかわらず、書かれた文字を読むことができない、読めてもその意味が分からない(文字と 意味両方ともそれぞれ単独には理解できていることに注意)などの症状が現れる。逆に意図した言葉を正確に文字に表すことができなくなる「書字表出障害(ディスグラフィア、Dysgraphia)」を 伴うこともある。(引用おわり)

 どうやらことばを文字と結びつける能力に欠陥があるということらしい。確かに文字と文章から概念を頭に定着させる事が著しく苦手だったという事だ(本書も共著者がいる)。それではテストでいい点をとれるはずはない。そのうち彼は読字障害を受け入れる学校に転校し、ようやく居場所を見つけたそうだ。そこでスポートを覚え、始めはラグビーで頭角をあらわし、その後クライミングにであう。

 クライミングは視覚で岩の状況を判断し、最適な動作を計算して肉体で実現するゲームだ。Jerryのクライミング能力からしてクライミング時の判断、戦略、記憶はきわめて優れている.彼はこれを文字ではなく観察から読み取って文字ではなく肉体に記憶を刻み込む事に極端に秀でていた。読字障害により得る事ができなかった読み書きの能力を代替するボディーランゲージが宿っていたのだろう。

(引用)読字障害への対応として普段は文書を一度コンピューターに打ち込み、読み上げソフトを使用し文書を聞き取るかたちで読んでいる。
一方でディスレクシア障害者は一般人に比べて映像・立体の認識能力に優れていると言われ、工学や芸術の分野で優れた才能を発揮している者も多い。こ れは左脳の機能障害を補う形で右脳が活性化しているためと考えられており、最近は若年者の治療において障害の克服と共にこうした能力を伸長させる試みも行 われている。 (引用おわり)

↑ この記載に納得.ジェリーは視覚情報(岩の観察)を文字をすっ飛ばして肉体の動きに変換する能力が高いのだろう.

 文章はクライミングの歴史と実際を知る人でないと読みにくいと思う。しかしクライマーには読む価値大。

 天才は犠牲をいとわない事で得られるのだなぁ。

 モファットはジョン・ギルを描いた「マスター・オブ・ロック」を愛読していた.

The Banff Mountain Book Festival で大賞.

 

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https://www.amazon.co.jp/dp/B00796E3K6/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1