Ecological Developmental Biology: Integrating Epigenetics, Medicine, and Evolution

(2012年に書いた感想を再掲)

 

Scott F. Gilbert, David Epel

発生学の定番教科書"Developmental Biology"の著者が挑んだ新しい発生学の枠組み.モデル動物を主体とする生物学では研究対象を限られた種に絞り、使用系統、飼育条件を統一化して世界中で共通した研究ができる環境を提供する事で爆発的な進展を果たしてきた.しかし実験室内の飼育条件は自然環境でのものと同一ではない.環境から受ける様々な刺激に対して生物はどのように反応し、その応答状態がどのようにして種の集団内で伝播し引き継がれるかの問題に対して、筆者は実に多岐にわたる考察を加えている.「共生」と「エピジェネティックス」をキーワードにして数多くの文献を読み込んだ著者が多彩な実例をあげている.筆者のメッセージは「生物は孤立した存在ではなく環境と、他の生物とが合わさったファミリーとして生存と発展を遂げている.」ということ.彼の指摘にはうなづけるところは多く、これからの生物学、発生学、進化学を考えるにあたり貴重な示唆を与える.
 気になるところとしては紹介されている研究例が多岐にわたり、かなり驚かされる話も多い事で、その結果の再現性、確実性がどこまで検証されているのかが判断しにくいところだ.もちろん反論も多くあるだろうし、数年後に見解が変わってしまうようなケースもあるだろう.またGilbertが引用する話を見ると彼のネタ元(ブレーン)が透けてみえるので著者に近い人たちの研究はより多く取り上げられている傾向がある.そのような不確実性、バイアスを含めても今、この時期に本社が出版される事には大きな意義がある.日本語訳も出版されているが本書の英語は平易で読みやすく学生は原書で読む事を勧める.

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