私の履歴書

 日経で連載中の石坂公成先生の回顧録。これがおもしろい。石坂先生といえばアレルギー反応の引き金となるIgEの発見者として有名で、アトピー、花粉症研究の先駆者として現代にますますその功績が評価されている方である。生命史研究館の記事からも先生の研究歴を知ることができる。http://www.brh.co.jp/s_library/j_site/scientistweb/no35/


 連載中のお話でこれまで印象に残ることが2点。まず日経の記事の冒頭で石坂先生は現在郷里の山形県で奥様の石坂照子博士の介護をしておられることが語られる。70才で研究者を引退後は帰国されたという。研究者としての最盛期をアメリカで過ごされ、ラホイヤアレルギー免疫研究所所長までつとめられた国外流出頭脳の先駆けのお一人である。しかし、晩年を日本で迎えられる所に根っからの日本人としてのこだわりを感じてしまう。IgEは人体の皮膚にアレルギー患者の血清を接種して、炎症反応が起きるかを見る検定方法でしか検出できなかった。これはHIVや肝炎ウイルスの感染の危険が高い危険きわまりない実験である。従って他人の皮膚はあまり使えず、ご自分と照子博士の背中に標本を接種し続ける、文字通り体を張っての研究でIgEを同定したことが語られる。照子博士は奥様であり、共同研究者であった。奥様への深い愛情と研究へのすさまじい気概を感じる。


 私はお会いしたことはないが時代の先駆者として尊敬できるお方だと信じて疑いない。