杉本博司

 東京出張の折りに杉本博司氏の写真展を見てきた。

杉本博司 時間の終わり

 どれもシンプルな作りにも関わらず彼の写真には卓越した技術に支えられた重厚な重みがある。私が彼の作品を眼にしたのは国立国際美術館に展示されていた音楽のレッスンウィリアム・シェークスピアだ。いずれも巨大な印画紙にモノクロで焼かれた人の姿だが隅々までディテールが鮮明で今にも動き出しそうな迫力だ。いずれも蝋人形を撮影したものだが何も知らなかった私はそのときモデルは生きているものと信じて疑わなかった。

 今回の展覧会ではカラー版の「音楽のレッスン」を眼にする事ができた。彼の蝋人形シリーズでは異例のカラーだがピグメントプリントという手間のかかる手法でよりリアルに仕上がっていた。

 彼の写真を見て数日、一見して単調な彼の作品の映像が私の頭の中で反芻されより印象が鮮明になってきた。またあの作品群に再会しに行く事だろう。

 ひとつの展示室は建築物をピンボケ写真で捕らえたArchetectureシリーズで占められている。その第1番目は9/11に崩壊したワールドトレードセンターだ。亡霊のように立ち並ぶ双子の塔がその運命を暗示しているようで薄気味悪い。この事件の事は杉本氏のエッセイ集(表紙はそのWTCだ)の冒頭で語られていた。自分が日本人であることをアメリカで発見した杉本氏の芸術観、歴史観を彼の作品を思い返しながら一晩で読んでしまった。おかげで今日は一日眠かった。

苔のむすまで

苔のむすまで