井上靖の小説を現代版に焼き直したドラマ。舞台を冬の前穂高東壁からK2に置き換えての設定と登攀シーンは結構な迫力で良い。三回見て大体終わりまでの展開が読めてきた。
- 第一回
三つ峠での登攀シーン。役者がへっぴり腰で動きが決まってない。
爪を飾った派手目の社長夫人がクライマーに興味を持つ。ありそうにない設定。
- 第二回
ニュージーランドでロケしたという登攀シーン。クライマーが演じているのだろうがかなりの迫力。
北沢が雪崩に飛ばされて脚を折ってしまう設定はTouching the Voidからのアイデアか。傷ついた北沢が生還をかけてプルージックで登攀中に確保がはずれて空中を舞う。いくらK2が急峻だといってもそんなに傾斜が急なのだろうか。
- 第三回
すでに完全なメロドラマになってしまった。山での事故が訴訟沙汰になって、ドロドロの法廷ドラマに展開してきた。証拠も目撃者もない山の中での事故が裁判で裁かれるというばかげた展開。ドラマ鑑賞もここでおしまいにしよう。
感想
1.はじめに:氷壁のTVドラマはもう三回目。幼いころに深夜、目をこすって覗き見た記*憶がある。はてなで質問してどうやら中村敦夫さん主演の作品らしいと判明した。氷壁登攀のシーンが舞台的だったのが妙に印象に残っているが話の内容はまったく覚えていない。
2.ロープは切れるものだ:原作では当時最新型だったナイロンザイルが登攀中に切断してその製造責任を巡って訴訟沙汰になるという話だった。切れたザイルは持ち帰ったのだったと思う。登攀用ロープは切れてはならないのだが現実には絶対切れないロープは重すぎて、弾力に欠けて実用には使えない。妥協点として切断の可能性を知った上でロープが切れないような扱いを要求するデリケートな道具だ。「ロープは切れるもの」という当たり前の事実を教えてくれたのがこの話のメッセージだったと思う。
3.カラビナも壊れる:今回のドラマでは北沢の墜落事故の原因としてカラビナの破損が疑われている。ただし破損したカラビナが回収されている訳ではないので事故原因を他に原因は考えられないとの消去法でカラビナの破損に帰する主人公の奥寺の言動は無責任だ。カラビナの正しい方向以外に負荷がかかった場合、あっさり破断したりゲートが開いたりすることは周知の事実でそのための二重のバックアップが必要なことは経験あるクライマーなら誰でも知っている。ただしドラマの設定にあったような安全環付のカラビナが壊れるのは滅多にないとされているのだが。
いずれにせよ道具は強度と重量のトレードオフでデザインされるので絶対安全な山道具などあることを期待してはいけない。絶対的な安全を目指すなら山など登らなければ良いのだ。
4.スポンサーの社長夫人に思いを寄せた北沢は無理をして命を落とす。色恋沙汰を山に持ち込む設定は無理があるな。隣で見ていた女房も「女はじゃまだねー」とのたまっていた。
5.番組のエンディングテーマの時に流れるカラコルムの空撮は大迫力。私としてはこの映像が最も貴重なものだ。G4とK2の山頂を上空からとっているものだ。実際あそこをねらっている人にとっては生唾ものだろう。
6.結論:登攀シーンは山野井泰文氏*1が監修したというだけあってかなり凝っていた。しかしメロドラマと法廷ドラマは不要だ。やはりTouching the Voidには足下にも及ばないと感じた。
*1:K2をソロで完登している