ダリとガラと岸恵子

 先日の日曜美術館サルバドール・ダリを取り上げていた。

 芸術家ダリの影には不遇時代からダリを支えてマネージャー役を務めた年上の妻ガラが常に居た。 

 ダリの絵が売れるようになるとガラはしかし他の若い男を漁るようになった。孤独になったダリは制作に没頭し傑作を連発する。しかしガラはダリを振り返らず、互いに老境にさしかかったころついに二人は別れる事になる。

 10年後ガラはダリの元に戻り、自宅で息を引き取った。そして7年後ダリが死んだ後は二人の棺は並んで葬られている。

 支配され翻弄される事で創作へのエネルギーを高めたダリ、奔放に振る舞うガラを聖母に見立てた作品をたくさん残した。ガラを美化することに彼の妄想と願いが込められていたのだろうか。何とも不可解な世界から奇怪な、しかし心を打つ作品が生まれたのだ。

 この番組にゲスト出演者として出ていたのが岸恵子さん。彼女はパリでダリ・ガラ夫妻とパーティーなどでご一緒したことがあったそうだ。岸さんの口ぶりではガラがあのダリを(かなりの美男子である)を虜にして支配するような女性だとは思えなかったそうだ。一目会っただけではわからない強い支配力をガラは不遇時代のダリを苦労を共にすることで手にしたのだろうか。

 で、印象に残ったのは岸恵子さんの話しぶり。ゆっくりと言葉を選んで、気の利いた話し方をされる。長らくパリの社交界におられたので会話の技を身につけてこられたのだろう。また外国人としてフランス語に不自由する分、言葉を選ぶ慎重さが身に付いたのかもしれない。優れた文筆家でもある。

 岸さんのエッセイ、「30年の物語」、は60年代の東西冷戦の時代に異邦人としてパリに暮らし、元レジスタンス闘士の夫が関わっていた旧東欧圏の人たちとの交流などが味わい深く書かれている。このエッセイはチェコで御世話になった日本人の方に渡してきたのだが彼女も岸さんの描く異邦人の視点には共感するものがあったそうだ。

 30年の物語 (講談社文庫)