純化せよ

For the Love of Enzymes: The Odyssey of a Biochemist

For the Love of Enzymes: The Odyssey of a Biochemist

 Arthur Kornbergの自伝。彼の研究スタイルと考え方がよくわかる。生化学の時代を主導したのがArthur Kornbergだ。彼は複雑な生命現象を理解するための方法として鍵になる分子(蛋白質)を精製し、その性質を徹底的にあきらかにするアプローチを選んだ。分子の活性を検定する方法を確立し、ひたすら精製。純化に成功すれば勝利、純化できなければ敗者だ。目標が明確に設定されているだけに成否ははっきりし、敗北の際には逃げ道は少ない。

 遺伝学や現代のゲノミクスは膨大な結果の中から真実に至るものを拾い出すセンスが決め手だと思う。鋭い感覚さえとぎすましていれば思わぬ副産物から偉大な成果が得られる事もある。RNA干渉はその良い例だ。しかしまた目標が達成できなくても何かしら成果が出せることの救いもある。

 一方でArthur達が実践していた純化によるアプローチは妥協の余地が少ない学問だ。Arthurの学問を引き継いで、更に構造生物学へ発展させたRogerの受賞は正統派の生化学へのまっとうな評価が成されたという点で喜ばしい。