ノーベル化学賞

 化学賞はロジャー・コーンバーグへ。遺伝子発現の基盤になる転写装置RNAポリメラーゼの構造と機能の研究に対してだ。転写制御はいずれ受賞対象になるとは思っていたがRNAポリメラーゼに対してとはちょっと意外。転写研究はRNAポリメラーゼを活性化する転写調節因子やポリメラーゼとの仲介をする共益因子、またヌクレオソームクロマチンの研究だと星の数ほど一流の研究者があふれる激しい分野だ。なので最高で三名の受賞者しか選べないノーベル賞の場合は選択に困ると思っていた。

 転写調節因子が熾烈な分野だったのに対してRNAポリメラーゼは巨大な分子装置で扱いが容易でなかったために正統的なテーマながら研究者は多いとは言えなかった。私が意外だと感じた理由は余りにもど真ん中に直球を投げ込まれて見送ってしまった様なものだ。学問的に深く重要な分野だが産業的に直接的な成果にすぐ結びつくという分けでもなく、受賞で株価が急騰すると言うこともない。このような地道な研究が顕彰されたことは喜ぶべき事だ。

 単独受賞な事も意外だった。しかしRNAポリメラーゼに限ればロジャー・コーンバーグ一人というのは納得できる。まったくもって受賞にふさわしい研究なことは間違いない。受賞理由の説明では転写調節因子の単離とエンハンサー配列の発見者であるピエール・シャンボンもクレジットされていた。しかし転写因子の研究者には今後ノーベル賞のチャンスを閉ざされたといっても良いかもしれない*1。選考委員会ではどのような議論が交わされたのか、興味があるところだ。

 ロジャーの父アーサーはDNAポリメラーゼの研究でノーベル賞を受賞。一度だけアーサーのトークを聞いたが困難な生化学のプロジェクトをねばり強くやり抜く所は父のスタイルを引き継いでいるようだ。アーサーの三男トムも発生学の研究者の学者一家だ。

*1:クロマチンは可能性があると思う