科学者の品格

 研究者には「格」がある。その格を決めるものは研究業績であり、科学の様々な面への貢献であり、教育と人材育成への実績だ。それに加えて科学者としての公平性、不正を起こさない倫理観、間違いを受け入れる真摯さに加えて人間的魅力が大事な要素だ。今回行われたミーティングは自分にとって専門外の神経生物学なのだがとてもためになるものだった。優れた演者が多かったのだがやはりその中でもその分野の長年リードして品格を備えた人に会うことが出来たのは収穫だった。最初に話したMoo-Ming Poo、そして最後を締めたMicheal Bateはさすがの話しぶり。

 Moo-Ming Pooは長年やってきた神経の成長円錐のガイダンスの仕事だけではなく新たに始めた軸索新生の制御機構の話をした。彼の持ち味である神経細胞培養の実験系を駆使して生化学者が反応速度、解離定数を決定するような感じでガイダンス分子の活性を徹底的に定量的に測定し、メカニズムを記載するやり方へのこだわりが彼の持ち味なのだろう。また他の発表に対しても幅広い見識でコメントしていた。学生のポスター賞の審査員となって熱心にポスターを見ていた。"What is the significance of your work?"といきなり切り込んで来る。すかさず切り返さないとその時点で負け。怖いですね。

 Michael Bateはショウジョウバエの神経生物学の大御所ながら気さくな方で一昨年始めて来日した時は駅の高架下の赤提灯を探検したり、半日の時間があれば若い頃の血が騒いだのか(平和運動の?)広島に出かけて原爆資料館を訪れたりと行動的な方だ。彼のトークは昆虫はいかにして「練習」なしに生まれ落ちてすぐに優れた運動能力を持つのかを追求した研究だった。先駆者だったDM Wilsonの話をひもといてのイントロから後半は幼虫の整然とした筋収縮からなる「歩行」パターンが生ずるためには発生中に「練習」のような活動が必要だという話をしてくれた。シンプルな実験ながら圧巻。彼らがなぜ尊敬を集めているか、よくわかる。襟を正してスピーカーの品格にふさわしい聴衆でありたいと思う。

 その様な機会を得られた人は幸運だ。そしてその様な機会を逃さないようアンテナを広げておく事はもっと大事なことだ。