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 よくとおる(?!)研究費申請の出し方、についてはトロントの伊倉先生がご自分のBlogに書いておられる。私は自分の申請(論文も含めて)を通すことさえ四苦八苦しているのだがその一方で審査する立場になる機会も増えてきた。

 学振特別研究員の審査をする機会があったのでその経験を記しておく。最近審査方法が変更されたが公平性の確保という点で改善といえるだろう。特に各申請ごとに6名の審査者が書類選考を行うので偶然合格する、もしくは審査員の無理解で不当にも落とされるという審査のぶれは最低限に抑えられるだろう(以前は3名だった)。

 書類審査にあたる審査員は1500人もいる。応募数を1.25万件として1件あたり6人が審査、一人あたり50件読むとすると (12,500 x 6) / 50 = 1,500となる数だ。よくもまあこれだけの数の審査員を確保できたものである。

 書類審査ののちに専門委員*1による審査会で採用者および面接者を決める。しかし領域の広さと応募者の数が膨大なことを考えると書類審査のウェートは重いと考えられる。

 私が以前別のグラントで専門委員にあたる役(二段審査)を務めさせていただいたことがある。そのときは経験豊かな先輩委員の方から「複数の専門家が関わる1段審査(書類審査)の結果は尊重すべきです。二段審査で修正を入れるのは重大な間違いを見つけたときか、当落線上での調整、それから1段審査の判断が割れたときなどに限るべきだ」と教えられた。1部の実力者が強引に自分の身内を通してしまうといったことは簡単にはあり得ないようになっている。

 書類審査では5段階評価での採点が求められる。最終的な採択率が昨年で13%程度だったことを考えると平均して最高点の5をとる申請でなければ採択は難しい。では書類審査ではどのような点がポイントだろうか?

 選考方法にはこう記されている

書面審査による評価は、(1)推測される研究能力・将来性、(2)研究計画、(3)研究業績のほか、
学位の有無などを含めて総合的に研究者としての資質及び能力を判断した上で、5段階の評点
(5:非常に優れている、4:優れている、3:良好である、2:やや劣っている、1:劣っている)を付けます。 
 なお、DCについては研究経験が少ないことから申請書記載の「現在までの研究状況」、
「これからの研究計画」、「自己評価」及び「評価書」を重視し、PDについては「研究業績」
を重視して評価します。

 書類審査員は平均して50件ほどの書類を読まなくてはならないが私の場合はそれよりも遙かに多かった。また申請分野も8領域に別れた分野*2の中から生物学の申請を引き受けるのだから自分の専門分野からは離れた広い意味での生物学の申請を読むことになる。これらの申請を限られた時間の中で読んで判断しなくてはならないので自ずからポイントを決めて目を通す。

1) では申請書を見てみよう。申請書一ページ目には専門分野、申請者名、履歴、研究課題がある。これから読む申請がどのような分野なのか?自分に近いのか、遠いのか、の判断をして次のページに備える。その意味で課題名の選択は慎重にした方が良い。2ページ目は現在とこれからの指導教官名が記される。これで申請者がどのような訓練を受けてきて、どういうステップを踏もうとしているかが読みとれる。

2) 私はその次に9ページ目の研究業績を見る。peer review journalに筆頭著者での論文があるならこれまでの業績に関してはかなり信頼が置けるものと考えることができる。なぜなら専門家からなるpeer reviewerは研究データのもっとも厳しい評価者であるからだ。学会発表や日本語のレビューは筆頭著者の論文がないときに限って、研究活動を把握する参考にする。もちろん時間のかかる実験や、reviewerの批判に手こずって論文発表が遅れることはざらなのでその場合はより慎重に申請を読むことになる。
 PDの場合、論文なしで良い点を得ることは難しいだろう。論文発表の実績をスキップしてPDとして世に送り出しても独立した研究者となれるチャンスは乏しく、費用対効果の面からメリットが薄いからだ。

3) 3ページ目から「現在までの研究状況」が記されている。よくある悪いケースは最初から全開で実験データの報告が並ぶことだ。思い出してほしい。申請書にはサマリーを記する所がない。慣れない分野の話をサマリーなしでいきなり読まされることは大変に苦痛である。評価者に苦痛を与える申請書がどんな運命をたどるかは想像に任せるが、生態学の申請を分子生物学者が読むこともあり得る、と考えてイントロダクションは専門外の人が読むことを前提に丁寧にかいてもらいたい。また申請者がどのような科学者を目指すのかの展望が書かれているとなお良いと思う。結局の所、学振研究員の審査は研究計画の審査よりも人材の審査に重点を置くべきだと私は考えるからだ。

4) 最後に二通ある評価書を読む。これは大事だ。慣れた先生ならさらりと推薦書は書けるものだがそれでも申請者ごとの熱意の差は隠すことはできない。淡々と書かれたもの、自分のラボの宣伝のようなものもある。場合によっては申請者本人よりもわかりやすく研究計画を記述してくださるケースもある。だが私が心打たれるのは本当に申請者を高く評価した愛情あふれる評価書に接したときだ。それはまた優れた評価書を書ける指導者(評価者)を選び、丁寧に評価書を書かせたということから申請者と評価者との人間関係を判断することが可能にすることでもある。良い人間関係を築くことは研究者として、社会人として重要な資質である。普段から自分のよき理解者を多くつくっておくことは色々な意味でとても大事なことだ。

最後に
 審査は審査員の独自性に任されている。明らかな利害関係のある申請書は割り当てられないように配慮されているし、もしそのような申請に接した場合は審査を辞退するように定められている。この拙文は私の限られた経験を記録して、これから申請を出す人が、その能力を正当に評価させる助けになることを願って書いたものだ。

ただしこれを読んでもあなたの申請が通ることを保証するものではない。Good Luck!

*1:衆議院に立候補された方もおられる!

*2:人文学、社会科学、数物系科学、化学、工学、生物学、農学、医歯薬学)