トマス・ハリス

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

 ハンニバル・レクター博士の妖しい魅力にとらわれてしまったら買って読まずにはおれない一冊。レクターの幼少期のお話ということで彼の全てを知っておきたいマニアに取っては必読。そんな読者の弱みにつけ込んでかたいした分量では無いのに上下2冊に分けているところに商魂を感じてしまう。とはいっても読み出したらやめられずすぐに読み切ってしまった。話としては少年ハンニバルが「怪物」に成長していく過程を描いたもので前三作(「ハンニバル」、「羊たちの沈黙」、「レッドドラゴン」などを体験した読者のためだけにある作品といって良い。おまけにハンニバルの成長に大きな影響を与える血のつながらない叔母が日本生まれという設定は「日本人に売り込む」というねらいが透けてみていやらしい。こんな作品が書かれた以上はもうレクターはキャラクターとしての魔力を失いつつある事を感じさ、寂しい思いを感じさせた一作だ。ファンとして☆一つはあげたいのだが同時期に公開された映画はついに見ることなく終わった。

ブラックサンデー (新潮文庫)

ブラックサンデー (新潮文庫)

 これは「レッドドラゴン」でレクター博士が誕生する以前に書かれた作品。アラブのテロリストが飛行船を使ったアメリカで大量殺人を企てるというストーリーなのだが、構成はしっかりしているものの二流のアクション小説にすぎない。魅力あるキャラクターあってこそ作品は魅力を増すのだが、この作品にはまだそれがない。トマス・ハリスはこの様な習作を描きつつ怪物的キャラクターの探索を続けていたのだろう。☆なし。