[Science]文化勲章

 土曜の朝のニュースで私の大学院時代の恩師が文化勲章を受賞された事を知った。私が学生だった頃、先生はすでに多忙を極めておられた。研究面は主に直接指導を頂いた当時助手の先生に受けていたので、「教授から自分はなにを学んだのだろうか?」と若い頃は疑問を持つこともあった。しかし今考えると先生がいつも強調されており、自分も当然の権利のごとくに思っていた「研究のおもしろさを追求せよ」と言う方針は必ずしも当たり前の事ではなく、先生が気を配って培ってこられた研究室と学科の雰囲気によってこそ実現していたのだ。しかしその事実を理解したのはずいぶん後になってからだった。お茶を飲みながらの様々な世間話と研究談義から科学観を吸収させて頂いたように思う。5年間もいる間には意識しないながらも教授の考え方と研究室のスピリッツがしみこんで行くものだ。

 先生は裕福な酒屋のお生まれで大学に進まれた後には英国に留学された(船でスエズ運河を渡ったと聞いたことがある)。科学が高貴なたしなみであることを身を持って実践されてこられ、近頃話題のこんな言葉とは対極な場所におられた方である。おしゃれで時には奇抜な(!)色遣いのファッションで知られていたが、あれは身なりをきっちりすることで人の視線を意識されていたのだと思う。研究室では学生の学会発表旅費の支給条件として「手を挙げて質疑応答を行うこと」というものがあった。それが出来なければ旅費は没収というわけである。自己アピールをしっかりせよとの教えであった。
 
 文化勲章の受章者のリストを見ると生命科学系の受賞者は以外と少ない。1990年から見ると、花房秀三郎 (1995), 岸本忠三 (1998), 豊島久真男 (2001)の三名くらいだろうか(少なすぎ!)。そんな状況で動物学科からスタートされて発生学を生命科学に発展させるために尽力されて、何よりも科学こそは文化だというアピールを発し続けて来られた先生が文化人としての栄誉を得られた事はとてもうれしいことだ。おめでとうございます。