科学論文系ソーシャルブックマークサイトSesame

どうやったら溢れる論文情報を整理できるの?

 論文の整理には論文執筆のデフォルトとなったEndNoteとフリーウェアのiPapersがあり、いずれもPDFを保存できる機能がある。しかし自宅と研究室、それから出張先で閲覧するには共有のサーバーにおかなくてはならずその管理は面倒くさいのでスタンドアローンで使っている。

 これらの方法に加えて、従来通りの論文を紙コピーしてファイルする方法とを併用して来たが情報量の増大と整理能力の欠如ですでにどうしようもない状況に陥っている。これに加えて記憶力の減退が重なってくる。印象に残った論文の内容は忘れないのだがそれがどこで見てコピーをどこにしまったかといった情報に関してはきれいさっぱり忘れてしまうのだ。これは困った事だ。

 ソーシャルブックマークサイト(SBM)はネット上にある情報にユーザーがブックマークし、タグ付けを通じて整理して他のユーザーに公開することで埋もれた情報への注目を喚起する仕組みだ。私は「はてなブックマーク」を定期的に見ているが役に立つ情報の宝庫だ。ブックマークサイトによってユーザー層の好みがあるようだが(はてなは情報系技術者が多い)その偏りをつかんだ上で、記事につけられたコメントを読めば多角的な意見が網羅されてバランスのとれた判断に役立つ。

 「はてなブックマーク」を使って論文整理を試みた事があるのだがいまいちすっきり使いこなせずやめてしまった。理由は1)科学論文に特化した機能がない、2)研究室内での情報共有のために必要なグループ機能がない、3)そして最も大事な事は科学者に限ったコミュニティーでのサイトではない、ということが挙げられる。

 そんな私のために便利なサイトがあることを教えられた。

http://sesame.selfip.net/

Sesameの特徴を挙げると

  1. 生命科学系論文に特化したサイトである
  2. 論文に限らず本、webサイトの情報も整理できる
  3. 論文を読んだ感想などメモを書き込める
  4. メモは完全公開、グループ内、個人のみの三段階の公開レベルを選択できる。
  5. ファイル添付ができるのでPDFやサプリメントを保管できる*1
  6. EndNoteに情報を書き出せる
  7. Pubmedでのキーワード検索を定期的に行うアラート機能
  8. 手持ちの論文PDFを読み込ませるとPMIDを元に論文情報を取得し登録する機能

などだ。

私の普段の使い方

  1. 最新論文
    1. 関連分野のキーワードを登録しておき定期的にアラートを知らせてもらう。
    2. Sesami中でアラートされた論文がリストされるのでチェックマークを入れて一括登録する。
    3. 読んだらコメントを記入する。内容によって公開レベルを変えて登録する。
  1. 古い論文
    1. Pubmedで検索し、ツールボタンを用いて登録する。
    2. 雑誌のサイトではPDFを得られない場合が多いので紙コピーをコピー機を使ってPDF化してから登録している。こうすれば机上の紙の山からコピーを探し出さなくても済む。

 まだ私の登録数は少ないがしばらく使ってみようと思う。開発途上のサイトなのでグループ機能の充実(ブログ・スレッドなどの情報交換機能)や使いやすい表示方法の工夫など改善の余地はあるし、細かいバグもなおして行かなくてはいけないが対応はしっかりしてくれている。

他の科学系SBMサイトとの比較

 sesamiとの比較のためにConnoteaとCiteULikeを試してみました。

ConnoteaはNature Publishing Groupと連携しているようでリンクをNPBの資料に誘導する事が多いようです。これは論文情報を第三者の立場から評価する目的には合致しません。また私のほしいグループ機能はなく対象外です。

CiteULikeはPDF保存、グループ、プライベート保存などの機能が充実していて、動作も快適です。特にグループのblogやthread機能は良いようです。日本語の入力もできていまの状態でも日本語コミュニティーで使用可能と思われます。すでにかなり多数のユーザーを獲得していることもプラス評価でしょう。

 一方でPubmed検索からのアラートと書誌情報取得の連携や、PDFからの書誌情報取得などの機能はSesameが勝っています。

いくつかのジャーナルサイトでは(たとえばPNAS)ではCiteULikeのボタンが配置されており読んだらすぐに登録できるようになっています。

 ただしユーザーは多いと言っても山中さんのCellやGrisha Perelmanのポワンカレ予想の証明など超弩級の論文でもブックマークはわずかでコミュニティー注目度を万遍なく抽出しているとは言えないのが現場です。

 誰かのblogでのコメントで「個人運営なので継続性に不安がある」と言われてましたがどうでしょうか?ブックマーク情報はまとめてダウンロードできて学術的な解析に供されているようです。この点が心配な向きもあるでしょう。

どのSBMサイトを選ぶべきか?

研究の目的で科学論文は整理する際には国際性と公開性で情報の共有は大事なポイントです。一方で不特定多数の読者に対して自分の研究に関した情報を公開することは研究内容をスクープされる恐れもあります。現に最近では学会発表の内容を勝手に使われて先を越されるという非紳士的な行為も目立ちます*2。なので大事な情報は自分と共同研究者だけに共有したいというニーズは一般のSBMよりも高くなります。その点日本初のSesameは適度に小さな母集団の中のコミュニティーに発展する可能性を持っています。

 いずれにせよ公開と非公開ブクマを使い分けて情報の蓄積、共有、発信を注意深くすすめていく必要があります。

 Sesamiは文献情報だけではなくDNAコンストラクトの作成と情報保管の支援ツールも用意されており、研究室の総合的情報管理システムを目指すということですのでその場合は日本語に特化したサイトの利点が生きてくることでしょう。

*1:ダウンロードしたPDFは個人使用に限られるので無制限に公開しないような注意が必要だ

*2:つい最近も苦い経験をしました