死に山

いくつかの書評で絶賛されていたので本を購入。冷戦真っ盛りの1959年のソビエト連邦ウラル山脈深部を登山する学生グループが全員死亡した大量遭難事件。未解決事件として今まで残っていた事件にアメリカからひょっこり乗り込んだ若いルポライターが現地調査を経て彼の推論を提示すると言うものだ。私にとって、本書の魅力は60年近く前の若者の暮らしとソ連の山岳登山事情だ。この登山はウラル工科大学の登山部の部員として計画されたものだ。リーダーのディアトロフ以下女性2名を含めた9名のグループはほとんどは20才過ぎの若者ばかり。厳しい冬山経験はないものの日頃から訓練を重ね、登山計画は大学の了解を得てから進められた。当時の登山はアウトドアのリクリエーションと言うだけではなくソビエト国家主義に基づく若者の鍛錬の意味合いが濃く、ディアドロフたちもこの登山を成功させる事で新たな資格を得ることが目的の一つだったようだ。大学のエリートたちが体を鍛錬して卒業後の出世を目指す時代だったのだ。とはいえ夜行列車や山小屋で楽器を鳴らして歌い、冗談おふざけの連発の愉快な若者たちだった事が当時の記述と、残された写真から生き生きと伝わってくる。自分たちが過ごした大学の山岳クラブの雰囲気に通じるものがある。謎解きの過程は冗長で評判ほど面白いとは思わなかったが、鉄のカーテンの向こう側の青春像を垣間見る資料として貴重な一冊だ。(2018, 11月読了)

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