独ソ戦 絶滅戦争の惨禍

いきなり話が逸れるが最近Amazon Primeでハマっているドラマに"The man in the high castle"というドラマがある。 

 これは第二次大戦でドイツが原爆を手にして英米ソの連合国に勝利、北米大陸は東西海岸部をドイツと日本が分割して統治していたという想定で書かれたドラマ。核兵器を手にしたドイツは日本も排除して世界制覇をもくろんでいるという状況でドラマは進む。いくら何でも一つの国が世界を支配するなど無茶だとは思ったがドイツは本気で世界制覇を目指していたというのが本書の主題。

 西進したドイツ軍はフランスを占拠し、英国に空襲を浴びせる。アメリカが参戦を躊躇している間に「戦争をしない」と約束していたはずのロシアへの侵攻をもくろむ。主な目的は戦争継続のためのウクライナの油田と豊かな農業資源だったらしいが強気にではドイツは北のバルト海から南の黒海まで戦線を広げてモスクワもろとも占拠しようとした。北海道から鹿児島までの長大な戦線に兵力を分散させ、兵站も維持するのは無茶な話だと思う。ドイツは個別の作戦での勝利にこだわり戦線を維持して占領地を統治するまでの戦略がなかったというのが筆者の指摘だ。資源を目指して進軍をはじめたら欲がでてソ連全土を支配しようともくろんだらしい。ソ連の方もロシア革命以来ウクライナバルト海沿岸に進出し、フィンランドまで狙っていた。ファシスト主導の帝国主義共産主義が主導する帝国主義、二頭の巨象が中間に位置する弱小国の資源を巡っての激突だったように思われる。

 本書には戦略、兵站の議論が多く出てくる。戦争は単に戦闘を支配するだけではなく大都市レベルの(10万人単位の)兵士を配置し、何年観にもわたって食べさせ、休ませ、士気と戦闘力を維持させなくてはならない。大規模なロジスティックが必要な大事業だ。そもそも戦線を維持する資源が足りなくなってはじめたソ連侵攻なので、短期間で勝利して敵地を安定に支配しなくては勝ち目はない。最初の数ヶ月は連戦連勝で急速に攻め込んだドイツ軍は補給線が伸びきって息切れがしている間に冬を迎えて戦線が膠着した時点で勝機は去ったとみるべきだったのだろう。

 それにしてもドイツは世界制覇を本当に出来ると思っていたらしい。これはヒットラーだけの考えではなく、彼におもねり、脅された数多くのナチス党員、将校たちに共通の考えだろう。国家としての戦争責任は限りなく重い。翻って日本政府と軍部の責任の取り方についても改めて知っておきたいと思った。

 

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