Apollo 11

1969 7/20 50年前の今日、人類が初めて月面に到達した。その記念すべき日に見る映画はこれしかない。淡々としたドキュメンタリー形式で発射から帰還までのシーンを構成。発車前の飛行士達が宇宙服を着用するシーンや巨大なサターンV型ロケットを車台に乗せ、発射台にゆっくりと運ぶシーンなど豊富な画像が興味深い。発射後は映像データが限られるが時折軌道の図や、ドッキングなど宇宙船の状態をアニメーションで示す事で補っている。宇宙船の速度、位置、飛行士の心拍データなどの数値データが示されるのも良い。

 このオペレーションのハイライトは月着陸船を司令船から切り離し、下降を開始してからの時間帯だ。未体験ゾーンに突入し、乏しい電波で通信が分断される中、コンピューターのアラームが点滅する、すかさず「問題なし、続行」と叫ぶ地上スタッフの声に押されて月面に近づく。下降用エンジンの燃料は底を尽き、残り30秒のコールの中、船長はまだ着陸点を探して慎重に期待を操作する。機体の下にあるセンサーが月面に接触してエンジン停止、そして着陸。静止するまで月面の状態は不明で正しく安定して着陸できたかわかるまで極限の緊張が続く。"Eagle has landed"のコールが届き司令室はようやく一息ついて安堵の声が漏れるもののすぐさま次のチェックが始まる。危険があればすぐさま離陸操作を開始するためだ。

 飛行の行程は数多くのチェックポイントが設定されており、それぞれにGo/No goの判断を行い、問題があれば撤退の決断をしなくてはならない。複雑きわまりない飛行をリハーサルなしで確実に成功させなければならず、更に1969年末までというタイムリミットを満たすためには安全性のマージンをぎりぎりまで削っていたに違いない。それを20代が主体のスタッフが実行していたのだ。人は機会と責任があれば成長するという事だ。

  映画の前にBBCpodcastシリーズ "13 minites to the moon"を聴いて理解が鮮明になった。

BBC World Service - 13 Minutes to the Moon

apollo11-movie.jp

死に山

いくつかの書評で絶賛されていたので本を購入。冷戦真っ盛りの1959年のソビエト連邦ウラル山脈深部を登山する学生グループが全員死亡した大量遭難事件。未解決事件として今まで残っていた事件にアメリカからひょっこり乗り込んだ若いルポライターが現地調査を経て彼の推論を提示すると言うものだ。私にとって、本書の魅力は60年近く前の若者の暮らしとソ連の山岳登山事情だ。この登山はウラル工科大学の登山部の部員として計画されたものだ。リーダーのディアトロフ以下女性2名を含めた9名のグループはほとんどは20才過ぎの若者ばかり。厳しい冬山経験はないものの日頃から訓練を重ね、登山計画は大学の了解を得てから進められた。当時の登山はアウトドアのリクリエーションと言うだけではなくソビエト国家主義に基づく若者の鍛錬の意味合いが濃く、ディアドロフたちもこの登山を成功させる事で新たな資格を得ることが目的の一つだったようだ。大学のエリートたちが体を鍛錬して卒業後の出世を目指す時代だったのだ。とはいえ夜行列車や山小屋で楽器を鳴らして歌い、冗談おふざけの連発の愉快な若者たちだった事が当時の記述と、残された写真から生き生きと伝わってくる。自分たちが過ごした大学の山岳クラブの雰囲気に通じるものがある。謎解きの過程は冗長で評判ほど面白いとは思わなかったが、鉄のカーテンの向こう側の青春像を垣間見る資料として貴重な一冊だ。(2018, 11月読了)

www.kawade.co.jp

クライマーズコンディショニングブック

加齢とともに体は言うことを聞かず、柔軟性は下降、俊敏性など跡形もない。それでも山に行き岩にしがみつきたい人間は肉体に向かい合い、故障に付き合うほかはない。私と同じような悩みを抱えたベテランクライマーでガイドのガメラ菊地敏之氏による一冊。本書には触れられていないが菊池氏本人も数えきれない怪我を体験し、それでも登ることをやめない1人である。

 本書はアスリートとしてのクライマーが心得ておくべきコンディショニングの基礎を多数の項目に分けて系統だって整理している。クライマーとして必要とされる肉体的能力(持久力、筋力、パワー、運動神経、筋協調性など)をクライミングの動きに即して解説している。菊池氏の長年の指導者としての経験が生かされている。実に多彩な概念をよく研究して、自分のものとして理解し、読者にわかるように整理したものと感心するばかりである。

 後半は体の部位別の筋肉、骨格の構造と故障のパターン、調整方法が整理されている。100を超えるトピックの選択は的確で、各項目はすべて図版を含む見開き2ページに簡潔にまとめられている。テーマと書き込む内容の選択に相当な時間と手間をかけたのだろう。

 一つ難を言うと各項目が短いために調整の仕方などは十分に解説が行き届いていない。分量から考えて無理もないことであり、本書はケース別の辞典として使い深い理解には指導者のアドバイスを仰ぐか、専門書に進むべきだろう。

  老若男女、すべてのクライマーが所持して読み続けるべき一冊。

www.yamakei.co.jp

御着の岩場散策

6/22も晴れ間の予報なので先週偵察した御着の岩場に行く事にする。JR別所駅を目指すがダイアが大幅に乱れて駅についたのは12時半くらいだった。山神社を目指して歩くが雲行きがおかしくなり途中から大雨。神社で1時間ほど雨宿りしつつ身の周りのものを乾かす。雨が止み日が差すと一気に水蒸気が沸き上がる。岩場も乾くと踏んでアプローチの山道に入る。入り口にあった車は退散していたようだ。岩場には誰もいない。正面スラブ壁下に荷物を広げて乾かしつつ簡単なルートにとりついてラインを調査。上部に垂壁、ハング帯を控えており、ルートは右に迂回してスラブを横断して岩頭に抜けるラインとなる。3度ほど上り下りしてから荷物を背負って上部を目指す。3級、5.5くらいか。いったん樹林帯に入るがクライミングシューズで進み上部の岩場へ。易しいがプロテクションは皆無でカムもとれない。岩頭に到達すると山神社の岩場にとりつくパーティーが見える。絶景。アプローチシューズに履き替えて稜線経由で山神社におりる。御着上部の岩場がかっこいい。途中で雨がちらついたので岩場はスキップして下山。神社で天気の様子を見るが持ちそうだったので駅まで歩く。18:30帰宅。(写真なし)

鶴齢 限定大吟醸 牧之

これまでいろいろなお酒を飲んできたがこれは全く別物。兵庫県産の山田錦新潟県魚沼で仕込んだ酒。贈ってくれた方に返信。

「昨年いただいたお酒を飲んでびっくり。これまで経験してきた日本酒とは別格の素晴らしい風味と味わいを堪能しました。いやー。世の中にはこんなお酒があるとはまだまだ飲みが足りないと深く反省しました。」

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鶴齢 限定大吟醸 牧之

http://www.kakurei.co.jp/sake/bokushi/bokushi01/

 

 

 

コリーニ事件 フェルディナント・フォン・シーラッハ

ひさびさに心震える読書体験。現役弁護士が描く法廷劇を通じてドイツの原罪をあぶり出す。厳選された言葉をタイトな構成で紡ぐ筆力は高く、スローな前半と大きく展開する後半のコントラストも素晴らしい。文芸作品とは一線を画する文体は法廷で鍛えられたものだろうが、これを日本語で味わえるのは翻訳の酒寄進一氏の力が大きいのだろう。これからシーラッハにハマりそうだ。

www.tsogen.co.jp