Paris-Reubex 2016

Jsportsの再放送。37才のオーストラリア人、アシスト一筋だったMatthew Haymanが人生最初で最後の大金星の勝利を挙げたレース。最初の逃げに乗り、追いつかれ、先頭9人に残るも最後の5つ星の石畳で離される。いったんは画面から完全に消えた後に渾身のおい上げで追いつき、競技場前での強豪選手同士の渾身のアタック合戦を生き残って最後のトラックで王者ボーネンに先行して勝利。映画『栄光のマイヨジョーヌ』で紹介されたHaymanはチーム若手の教育係として「ボス」と慕われる人格者。素晴らしいレースだった。

「真実のデータ」

FB 2016年7月5日 に書いたものを記録しておく。

「真実のデータ」第一線の細胞生物学者で国際誌EMBO Jの編集主幹まで務めたPernille Rørth博士が故国デンマークに戻ったのちに研究の一線から退いたと聞いてびっくりしたが、科学研究に関わる小説を書いていたと聞いて二度びっくり。本書は生命科学の一流研究室で起きた研究不正を題材に当事者のポスドク、告発者、研究室主催者それぞれの立場で代わる代わる語っていく。ほとんどのところは皆が誠実で、極力正しく振舞おうとするが様々な重圧で生じたほころびが公式な不正調査につながり一流誌の論文撤回と、ほとんど手にしていた独立職の喪失につながる。本書の魅力は1)リアルさを極めた科学研究現場の記述、2)研究者として多感で不安の多いポスドクの心情をデリケートに描いたこと、3)問題に接したPIの不安と迷う心理、4)研究不正に対する組織の対応、そして5)論文撤回に便乗して研究室を攻撃にかかるネットジャーナリストの行動、などが挙げられる。さらに不正が疑われた研究の真実を明らかにするために教授はポスドクを総動員して「検証実験」を行わせる。実験を重ねれば重ねるほどに結論は二転三転し、真実を明らかにする道筋の長さを語っている。さらには「実験は間違っていても、考え方と結論が正しければ良いのではないか?」といったきわどい問いまで飛び出してくる。何がヒントになったかはわからないが著者の豊富な経験が随所に現れている。
 最後の章で告発者の女性研究者が成功し、ボストンの出身研究室を訪問するくだりがある。平常に戻って忙しい元ボスや同僚と旧交を暖めるところは自分の留学時代の研究室を思い出した。一番苦しく、エキサイティングな時代を共にした仲間とは今でも心を許せる友人だ。多少の軋轢があろうともそのような研究室をまとめていたボスには感謝する。
 文書は平易で読みやすくRørth博士のシャープで簡潔な論文を彷彿とさせる。一般読者には実験の記述が読みづらいかもしれないが、エンターテイメントとしても、研究不正教育の教材としても非常に面白く読める科学小説だ。

www.springer.com

自転車プロツアーチームの舞台裏

UCIプロツアーは自転車ロードレースの最高峰チームで財政、実力、チーム運営、サイズなどきびしい基準を満たした18チームに対して認可される。グリーンエッジはオーストラリア初のプロツアーチームとして2012年に発足した、その後オリカ、ミッチェルトンスコットとスポンサーを替えていまも活動を続けている。チームスポーツであるロードレースはコーチによる戦略とそれに従う選手の規律、数値で測定される身体能力などが重視される。トレーニングメニュー、食事の量と体重を厳格に管理するチームが多い*1。この映画によればグリーンエッジはそのような空気とは一線を画し、選手の奔放さと個性を生かすチーム運営をしていた。その中の数名の選手を取り上げ、彼らの歓喜のシーンを映像とインタビューで綴る。扱うレースはクラシックのミラノ-サンレモ、パリ-ルーベ、ステージレースのツールドフランスブエルタエスパーニャに絞ってレースの雰囲気と選手の目線、コーチの目線の映像の組み合わせ、構成はシンプルだがレース映像が大迫力。

 ハイライトはなんと言っても2016年のパリ-ルーベ。長年アシストに徹してきた37才の大ベテランで若手にチャベスに「ボス」と慕われるMatthew Haymanが執念の粘りで逃げグループに残り、ベロ度ロームに入ってのスプリント勝負で偉大なチャンピオンであるトム・ボーネンを交わして涙の優勝。大感激で終了。良かった〜。

 

www.greenedge-movie.com

www.velonews.com

*1:その息苦しさについてはトップチームCofidisで活躍していたフランス人ダミアン・モニエ(現愛三工業)のインタビューに詳しい

Side by Side Radio: 61-bonus. Damien Monier - ダミアン・モニエとのお話

杉野保さんのこと

3月5日の午後、クライマーで、インストラクターの杉野保さんが城ヶ崎海岸の岩場で転落死したと言うニュースを知った。55才だった。彼とは友人というわけではないが1990年代に静岡県に在住していた私が各所の岩場で度々行き交うことがあった。もちろん彼のクライミングの成果は有名だった。最初に彼の名前が知られたのは城ヶ崎シーサイドエリアのコロッサス5.13aだろう。懸垂下降でエリアに下ると最初に見えるルートでカム、ナッツの難しい箇所からボルトに守られた難しい一手。あのエリアでも取り付く人がほとんど見られない課題だった。彼を知る人の間で一致した評価は「強い」という事だ。今風のボルダーで強いという事ではなく、いったん取り付いたルートは安定して落ちずに登り、13台のルートをオンサイト、もしくは最小限のトライのきれいなスタイルで登る。経験を重ねるにつれ彼の動きはますます洗練され、その所作は美しいドローン撮影で見る事ができる。

www.youtube.com安定感抜群であった彼でさえ不慮の事故で墜落した。クライミングの危険は相手を選ばず襲ってくるということだろう。

 彼が引率するスクールには元スクール生の奥さんがいつも同行していた。コンペ初期のチャンピオンであった彼女の日記では杉野氏はいつも「先生」と呼ばれていた。そこには師であり、夫であり、一人のクライマーである杉野さんの姿が素直に書かれていて読み返すともの悲しくなるのである。

杉野千晶のたまにっき

尻を効かせろ!

ここ3年ほど両股関節の不調に悩んでいる。整形でX線MRI撮影して見てもらったが大腿骨がはまっている関節部の軟骨が減少して変形関節症の前兆なんだそうだ。普通は加齢によるものでもしかしたら先天的なものがあったかもしれない。対処法は、1)体重を増やさない、2)下半身を鍛える、それでも悪化したら人工関節への置換。置換手術は89才になる母が昨年やったがこんなことで親に追いつきたくはない。なので鍛える他はない。

 最近は痛みもなくボルダリング、自転車と軽い山登りは問題なく出来ている。しかし身体を動かした後で関節の前面部、大腰筋、腸腰筋あたりが固くなる。整形の理学療法で診てもらっていた。熱心な方で良いアドバイスはいただいたが15分程度で終わりでいまいちだったのでやめてしまった。個人的に診てくれる人はいないかな?とジムでご一緒する理学療法士のドーハラさんに伺ったら有り難いことに「診てみましょうか?」と言ってくださりお願いした。

 立位、座位などで脚の動きを診ていただいた診断は「お尻が薄い!」。太腿や脚を引き上げる筋はついているが後に引く筋肉(大臀筋、中臀筋)が弱く前後のバランスがとれていないとのこと。我ながら腰回りが薄いと思ったことは一度もないのでとても意外。対処法としてストレッチをこまめにすることと、三パターンの補強運動を教わった。いわゆるヒップアップ体操である。確かに弱く、ちょっと力をかけるだけでキツい。

 その上で歩行と自転車走行の際に注意すると自分はお尻を効かせて脚を回すことが出来ていないのだという事がわかった。その点を意識するだけで歩行時でもお尻への効き方が変わり、自転車も踏み脚だけではなく引き足を使ってクランクを回す事で効いてくる箇所が変わる。

 ということで尻を意識して一ヶ月頑張ろう。

復活の日

www.kadokawa-pictures.jpコロナウイルス騒ぎでふたたび脚光を浴びた作品。人工ウイルスによって人類滅亡、自動化された核攻撃報復装置の誤作動で無人の大地で核戦争。南極に生き残った800人超の男性と8名の女性による計画出産プロジェクト。ノアの箱舟に生き残った最後の生き残りからの人類再興。南米大陸を南下する狂った吉住博士は人類進化の旅の再現。皮肉たっぷりの小松左京原作に日米の有力俳優を集めてヤクザ映画の深作欣二が監督。病に冒されて崩壊する人類社会のパニックシーンは残酷で緊迫感がある。1980年作品。私が学生時代に話題となった作品だ。いまでも強烈なメッセージが感じられるのは小松左京の力量故だ。