- 作者: 中条省平
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2000/01
- メディア: 単行本
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この評論家の事を新聞の映画評論で知ったのはつい最近の事なのだが彼の論評を読むたびに文章の切り口と構成にうならせられる。そして彼の論評する作品は確かに良い。そこで彼の著作を読んでみようとかったのがこの一冊。
表題はちょっと軽薄だが中身はすごい。日本の作家の作品の一節を切り取ってそこに込められた作家の意図と、工夫を解読する。そこから始まってその作品全体に及ぶ評論と作家論と展開する。第一章に真っ先に取り上げられていたのが森鴎外の「山椒大夫」。鴎外は無駄を廃し、徹底した客観的な記述で事実を積み上げることで読者を作品の世界に引き込む。「ハードボイルド」の世界だと論ずる。うーん優秀な官僚で学者だった鴎外のスタイルは明治の時代にすでに冷徹な現代文を確立させたと言うべきだ。
そのほかにも数多くの古典的作家の作品を分析して、その輝きの源を明確に掘り出して提示している。どの評論をとっても中条氏がその作品と作家を評価した上でそのトリックを解き明かし、優れた点を明らかにしている。
文学の味わい方を教えてくれる優れた文学解説書だ。ただし巻末の村上龍のインタビューは他の部分とマッチせず蛇足だ。
☆☆☆